オンライン不二 001 オンライン寺ツアー - 臨済宗青年僧の会

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オンライン不二 001 オンライン寺ツアー

過去の不二
【オンライン不二 001号】
2022年6月14日公開
オンライン寺ツアー

~臨済宗・黄檗宗の将来に光 50年前の喫茶店は、現在のネット上の世界なのかもしれない~
 
 
オンライン寺ツアーとは
東京禅センターが開催する普段は拝観ができない場所や、外から拝観しただけではわからない魅力を各寺院の住職などが直接参加者にお寺の歴史を解説したり、禅の話しをする新しい形の拝観方法。令和2年8月に谷中の全生庵で初めて開催し、現在までに8回開催、令和4年8月23日には岐阜県伊自良の東光寺で9回目の開催をすることが決まっている。
 
 
開催実績
第1回 東京谷中 全生庵と幽霊画展  令和2年8月29日(土)
第2回 福井 大安禅寺 令和3年 2月27日(土)
第3回 松島 瑞巌寺  令和3年 4月24日(土)
第4回 京都 龍安寺  令和3年 6月26日(土)
第5回 浜松 龍雲寺  令和3年 8月28日(土)
第6回 京都 退蔵院  令和3年10月24日(日)
第7回 甲府 円光院  令和4年 1月22日(土)
第8回 島根 一畑薬師 令和4年5月14日(土)



東京禅センターとは【ホームページより】
臨済宗妙心寺派東京禅センターは首都圏で禅を紹介する拠点として、また禅に親しんでいる方に心の安らぎを与える場所を提供するべく、平成17(2005)年の妙心寺開山無相大師650年遠諱記念事業の一環にて開設されました。禅を学ぶ場として、花園大学・正眼短期大学から講師を招き講演会を催しています。また禅を体験する場として、一般・企業などを対象とした様々な坐禅や写経の体験を催しています。
さらにわかりやすく禅を伝えるため、龍雲寺(東京都世田谷区野沢)との共催にてダンマトーク(法話会)を開設し、継続して開催しています。
新型コロナ・ウィルス禍では積極的にオンライン化を進め、オンライン坐禅会やオンライン寺ツアー(Zoomアプリを用いた寺院拝観)、オンライン講演会を積極的に催しています。
 


東京禅センター副センター長
細川晋輔師




今回は、東京禅センターの副センター長で、令和2年11月に開催したオンライン特別講座でもお世話になった細川晋輔師にお話しを伺いました。
 




【質問者】臨済宗青年僧の会事務局員(以下、名前省略)
東京禅センター様の活動を支える職員について教えてください。


東京禅センター 副センター長 細川晋輔師】(以下細川師)
今、私が副センター長をやっていまして、主任という重要な立場に並木さん、その下に3人の部員さん、そして補佐員と言われる若い和尚さんたちが十数名います。
補佐員さんたちにも坐禅会の直日をしていただいてます。
部員がいろいろな企画を立て、その運営をしてくれています。
平成17年の無相大師の遠諱の頃に東京禅センターはできましたが、遠諱の前に準備期間があり、首都圏に禅を紹介するための布教の拠点、また妙心寺派として首都圏の花園会員様(妙心寺派寺院の檀信徒)のフォローアップということを目指していました。現在は布教に特化していく流れがあり、また坐禅会や講演会などの活動を積極的に行っていく組織になっております。




オンライン寺ツアーの始まりから現在まで
【質問者】
東京禅センター様の活動についてお伺いします。やはりコロナウイルス感染拡大前後で状況は大きく変わったと思います。コロナ流行の前と現在の変化を教えてください。


【細川師】
今まで東京禅センターとして目指してたのはまさに「三密」そのもので、参加者がいかに増えるかということを考えていました。毎週の坐禅会もそうですし、禅カフェという喫茶店で椅子坐禅をしてお話をすることであったり、講演会、「臨済録を読む」といった和尚様対象の勉強会もしていました。
しかし、コロナの流行で布教や教学系のものが全て一旦休止になりました。

2020年には東京禅センターとして、実は東京オリンピックに合わせていろんな企画を考えておりました。
谷中という町を中心に、本物の禅をお寺という場所で体験していただく「ZEN Days(禅デイズ)」などがその一つです。
その大きな目標に向けて、予行演習として海外の方にデモを体験していただくなど、海外の旅行者をターゲットに準備をしていたのですが、オリンピックの延期や無観客開催によって、残念ながらこちらも中止となりました。
禅センターとしては、英語で坐禅指導できるスタッフをそろえ、東京に来る外国からの観光客向けの坐禅体験、海外からアクセスできる英語の坐禅についてのホームページ制作運営を目指していました。しかし、それも現在は一旦休止になっています。それでも外国籍の禅僧による英語での坐禅指導レクチャーのレッスンだけは、継続しております。




オンライン寺ツアーのきっかけ
【質問者】
「オンライン寺ツアー」はどのように始まりましたか。コロナの影響もあったかと想像していますが、もともとお寺のツアーがあり、それをオンラインでの開催に切り替えたのか。それともまったく新しい取り組みとして発足したのでしょうか。その狙いなども教えてください。



【細川師】
東京禅センターの動きが全て止まってしまった時に、スタッフで集まった中で「何かしないといけない」という話になりました。それぞれが色々な意見を出し合った結果、禅文化のオンライン発信という一つの結論にいたりました。オンラインであれば距離の問題が解決でき、感染症の如何に関わらずオンラインでお寺の拝観ができるからです。
1回目は谷中の全生庵さんを会所とさせていただきました。終わってみれば多大なるご尽力を全生庵様よりいただく結果となりましたが、参加者の評判は非常にいいものがありました。この第一回目で、この「オンライン寺ツアー」を継続していくことにある程度手応えを感じたのです。




開催回数や間隔について
【質問者】
最近は2か月に1回というハイペースで開催をされていますが、これは開催当初から予定していた開催間隔ですか。また、これまでに7回開催をされていますが、初めてのツアーから2回目を開催するまでに約半年の間隔があります。この間隔には何か理由があるのでしょうか。


【細川師】
最初はZEN Daysの企画であり、全生庵さまは幽霊画が有名なお寺でいらっしゃるので8月に開催しました。初回ということで、業者の方に入ってもらい動画配信などをお任せしました。会自体はおかげさまで成功したのですが、業者の方への経費や、参加費や謝礼などをふまえ、この企画の持続性を皆で考えました。その結果、参加してくださる皆様もzoomに慣れてこられたし、自分達だけで配信できるということで、第2回の福井・大安禅寺さまでの開催となりました。
ここからは、オンライン寺ツアーとオンライン講演会を1ヶ月に1回どちらかを行っていきました。当時(令和3年2月)は、まさか令和4年の今頃までコロナで苦しむとは思ってもいなかったので、とりあえず対面でできるようになるまで、とりあえず一個一個次のお寺を決めていくような状況でした。




ツアー参加者と感想
【質問者】
毎回の参加者数や参加者の感想を教えてください。

細川師
今まで7回やって550人の参加がありまして、平均すると約80人ご参加いただいております。参加者の年齢層はバラバラです。
 感想は好意的なものが多いです。
「コロナの中であまり遠出ができない中、お寺のご住職や歴史美術に詳しい和尚様が直接案内してくれることを案内してくれるこの企画を楽しんでおりました。」

「この企画ならではの話があってより一層興味が湧き、拝見したお寺には必ずお参りしたいと思っています。案内も2日前、前日と確認メールをくださりお土産などもお手紙を添えて届けてくださりとても親切丁寧です。」

「この企画でこの金額でこの内容は安すぎますよ、設定金額を決めてそれ以上はお布施の形で収めていただいたらどうか。気候変動によって本堂の維持が難しくなっているという話が印象的でした。 退蔵院だけの事情ではないでしょうから歴史ある建築物が新たな対策を見いだせるよう祈り応援したいと思います。」

「初めてオンライン寺ツアーに参加しました.。とても良かったです。行きたくてもなかなか行けないので、中を見れて良かったです。普段では非公開のところまで見れたり解説してもらえたりお土産もあり満足でした。また参加したいですし、行けるようになったら是非うかがいます。」

「1時間15分で庭園やお茶室などが見れていろいろなお話が聞けたので色々とちょうど良い時間でした。自宅にいながらにして遠い京都のお寺をご住職のガイドで訪ねることができたとても贅沢な時間でした。」


このような感想が表していると思うのですが、家に居ながら参加できるという事、またそのお寺の住職副住職が説明してくださるということは、あまりないことですし、やっぱり上手いんですよね。また、逐一質疑応答に答えていただける機会も参加者の皆さんにとってすごくありがたいことだったんだと感じました。



開催側の感想
【質問者】
実際に開催をしてみて苦労したことはありますか。


【細川師】
インターネット環境には、常に苦労しています。
雨が降ったり、つい1時間前のテストはうまくいっていたのに、お昼時になってしまうと急に繋がらなくなってしまうこともありました。やはりオンラインツアー、オンライン企画の場合大切なのはやっぱり安定した電波環境ですし、有線での接続環境は最低限不可欠であるというのが、いろんな失敗をしてきて私たちなりに学んできたことです。
開催してくださるお寺によっては、あえて工事までしてくださった所までありました。最近は、1つだけ有線接続のパソコンを、保険として準備をしていただくことでトラブルを回避しています。有線であってもトラブルがありますが、開催してくださる和尚さんの方から、様々なアイディアをいただくこともありました。私も80mのドラム式のLANケーブルを購入したのですが、この長さがあると何とかなると言うのが、今の私の哲学です。

それから、何と言っても大事なのが音声です。オンライン開催ですので、画像の悪さについては参加者が許してくださいますが、音声が悪いとストレスになってしまいます。ですので、マイクを使用していただいたりと、音声にはかなり気を遣うようにはしてます。




【質問者】
細川師は司会者として感じるオンライン寺ツアーの魅力を教えてください。

【細川師】
訪ねたことがあるお寺さまでも、知らなかったことがたくさんあり、自分自身が参加者目線でたくさんの学びがありました。
私が司会をするにあたって大事にしているのは、”両方の視点を大切にする”ことです。例えば、拝観者様に白隠禅師の禅画を説明するときには、その画について自分が説明したいものがございます。開催寺院の和尚様にも同じで、拝観ツアーの中でお話しされたいことがきっとあるはずです。そこはしっかりお話いただく方が、参加者にとっても有意義になるのは間違いありません。同時に参加者と同じ目線でいることができれば、「これはなんだろう」という、「知りたい」という視点を持ち続けることができます。
また、リハーサルも大切にしています。すべて2回以上のリハーサルを重ねて、本番の時に話が詰まってしまった場合のことも考えて、手元に投げかける質問などの資料は用意して臨んでおりました。
参加者からの質疑応答もこのツアーの魅力の一つですが、ほとんどが想定外の質問にもかかわらず、それぞれの和尚様がしっかりと対応してくださるのは流石でした。



【質問者】
オンライン寺ツアーでは参加者の質問はチャット(文字入力)に限定されていますが、これはどのような効果がありますか。

【細川師】
質問の数も、こちらが予想するよりもたくさんあり、全てを読むことが難しいこともあります。チャットでしたら同じ内容の質問を割愛することもできます。もし参加者が自由にマイクを使って音声で質問してしまうと、やはり拝観の流れに影響がでてしまいます。文字にして質問をしていただくことによって、ご案内くださる和尚様の流れを大切に。ツアーを開催することができているように思います。
和尚さんが話しをしたいときには質問をせず、少し間が空いた時に質問を入れるということを大事にしていました。
一方的に和尚さんだけが話して終わってしまうなら、ユーチューブなどの配信動画でよいはずなので、対面のシステムを使っている以上は、参加者が置き去りにならないように気をつけて開催していました。



【質問者】
zoom(ズーム)ではなく、ウェビナーを使う理由はなんですか。
※ウェビナーとはウェブ(Web)とセミナー(Seminar)を合わせた造語のことで、インターネット回線を通じてオンラインで行うセミナー、またはセミナーを行うための道具のこと。


【細川師】
人数制限です。ウェビナーでは1000人まで参加できるようになっています。zoomでは個人の画像が映りますが、ウェビナーでは個人の画像が一切映らないことも、特徴のひとつです。また、話しをする人を状況に応じて変えることができることもいいですね。
そして、動画の配信時に画像が綺麗になることです。ウェビナーで動画を共有しようと思うとある程度きれいになるようですし、パネラーと司会者の形がオンライン寺ツアーには適していると感じています。
また、ウェビナーの場合、開始前の待ち時間に、参加者に対して質問が投げかけられる機能もあります。



お土産について そして有料化について
【質問者】
オンライン寺ツアーでは参加者に”お土産”を出しています。お土産を始めたきっかけや込めた思いはなんでしょうか。


【細川師】
オンライン寺ツアーでは、参加者に”五感で参加”いただくということを目指しております。
ですから、視覚と聴覚にさらに何かを加えたいと考えて、お線香なら嗅覚を使うということで、第2回の大安禅寺さまの際には、お寺で販売されているお線香を、お土産として参加者に事前に送付しました。
また、お土産を購入することは、開催をするお寺さんにとっても売り上げになりますし、何より参加者が喜んでくださるので、お土産制度を導入いたしました。

これまでのお土産については、開催寺院さまと相談して決めさせていただきました。クリアケース、蹲踞(つくばい)の栓抜き、御朱印などを準備いたしました。
アンケートを拝見すると「御朱印はやっぱり実際に行ってもらいたい」というご意見で、皆で意気消沈するところもありましたが、「御朱印がすごい嬉しいです。1000円以上の価値があります」と喜ばれる方もいらっしゃったりと、概ね好評価をいただいたと感じております。



【質問者】
東京禅センター様のオンライン坐禅会は無料ですが、オンライン寺ツアーは有料での開催です。この有料での開催についてはどのような経緯で決定をしたのでしょうか。


【細川師】
このオンライン企画の有料化については、かなり悩みました。悩んだ末の苦渋の決断でした。
例えば臨済宗青年僧の会さまの坐禅会も無料ですし、有名アーティストも無料で配信を行うなど、コロナの自粛中は特に多くのものが無料でした。そのような状況で我々だけが有料化してよいのかと反対の意見もたくさんでました。さらに、有料化させていただくのであればいくらにするのかも何度も議論を重ねました。
禅センターは本山の予算によって運営しておりますので、ただお金を使うだけの無料開催を重ねていくわけにもいきません。利益は出さないまでも、せめてある程度の経費は回収しなくてはなりませんし、開催寺院さまの収益に少しでも貢献したいという思いもございます。
有料化には大きな反響がありましたので、1000円をいただくけれども、禅の教えの発信や坐禅のお知らせ、禅文化を伝えていくこと、何よりオンラインで寺ツアーでお世話になったお寺さまのお土産を買わせてていただくことによって、参加者の皆さまとの縁につながればと考えるようになりました。

話は少しかわりますが、私自身も臨済宗青年僧の会さまのオンライン坐禅会に参加させていただいて、強く思うことがありました。このオンラインというものは、もしかすると「やる気のある地方の和尚さまたちの収入源になりうるのではないか」ということです。過疎化、人口減少が問題視される昨今、寺院の運営も厳しいものがあります。そんな中、オンライン坐禅会に100人200人が来て、そして参加志納金をいただくことができれば、地方のお寺にいながらにして、護持運営するための資金に繋がっていくのではと考えたからです。

しかし私の考え通りにはいきませんでした。ちょうど自粛の頃は、エンターテインメント業界もほぼタダで配信などをされていましたり、毎日坐禅会を開催しておられる臨済宗青年僧の会さまも、毎日ブログや動画を更新されておられる円覚寺さまも、みな無料での開催でした。当然といえば、当然なのですが、無料で当然という風潮になっておりました。
もちろん、それはいいことだと思うのですが、やはり皆さんもご存知の通り経費は間違いなくかかっているわけですし、それを何年か続けていくと間違いなく疲弊していってしまうという思いもありました。
有料化にもいいところがあると考えておりました。お金をいただくからには、やはりそれなりのしっかりしたものを提供しなくてはならないという責任が生じることです。無料ですと「もし何か起こっても無料だから許してください」というように、どうしても逃げてしまうところもあるので、禅センターは有料化に挑戦していく機関でなければならないとも考えています。


これまで、禅センターの現地での坐禅会は500円の参加費をいただいていました。このときは菓子を出したりしていましたが、この500円の設定も毎年議論の中心になっていました。もう少しだけ値上げにした方がいいのでは?という意見も過去にございました。ですから、坐禅会などについても、もしオンライン開催をコロナが落ち着いてからも残すのであれば、有料化ということもしっかりと考えて取り組んでいかなくてはならない問題であると感じています。





ツアーを開催するにあたって必要なもの
【質問者】開催寺院の選定について
大変魅力的なお寺での開催が続いていますが、開催する寺院の選定方法はどのように決めているのでしょうか。また、今後の予定などが決まっていましたら教えて下さい。



【細川師】
開催する寺院の決定については、私も含め部員各位とのつながりを大切にしていました。
ご紹介していただくお寺の和尚様には、インターネットへの接続だけでなく、時間の拘束など負担がかなり大きなものがあります。ですから、なかなか簡単にお願いできないという問題もあります。何より、それだけ負担をかけてしまうからには、開催寺院さまにとって、この機会を何かにつなげたいという思いがないと厳しいものがあります。
たとえば、福井の大安禅寺さまでしたら、今大修復をされている中、観光にも力を入れておられますし、一人でも多くの方に大安禅寺を知っていただきたいという熱い思いがあったので、とてもありがたかったです。瑞巌寺さまや龍安寺さまも、それぞれ日本屈指の大観光寺院でいらっしゃる中で、観光客の回復の一環として快諾してくださいました。
また、この記事を読んでいる和尚さまや、臨済宗青年僧の会の事務局様の中、または「ご自坊や、このお寺を知ってほしい」という方がおられれば、ぜひご一報ください。
一番私たちにとってありがたいのは、その和尚さんのやる気です。このお寺を一人でも多くの人に知ってほしいという思いがこのオンライン寺ツアーには一番不可欠であると思います。
あとwifiですね(笑)。ネット環境と和尚さまの熱い思いがないとこのオンライン寺ツアーはできないと考えています。
コロナが落ち着いたら、私たちが参上して動画を撮影し、和尚さまにインタビューしていくということも考えています。





今後の展開
【質問者】
コロナの騒ぎが収束した後、オンライン寺ツアーは継続されるのでしょうか。継続される場合には、どのような形での開催が望ましいという目標などはありますか。


【細川師】
令和4年度は続けていくことになりました。その後はコロナの影響も考慮しながら、私たちが現地に行って和尚さんに手を煩わせることなく進めながら、そして200人、300人の参加者が集まっていけば臨済宗や黄檗宗のお寺さんを広くお伝えできるチャンスになると考えています。
現在、オンライン寺ツアーは終了後に録画したものを参加者の皆さんにだけyoutubeで見られるようにしています。コロナが落ち着いて対面式のオンラインよりも、撮影した動画の方が参加者が多くなるかもしれません。その時はその時です。一つのやり方に固執せずに、自由自在に発信していくことこそ、禅の教えであると考えております。距離という問題をあっという間に解決してしまったオンライン。臨済宗青年僧の会さまの坐禅会にしろ、禅センターのオンライン企画にしろ、時代に即していくことが肝要であると思っています。


【質問者】
今後、オンライン寺ツアーでは、実際に現地に来る人とオンラインで参加というハイブリッドというのは難しいでしょうか。

【細川師】
どうでしょうか、やっぱり家から参加できるというのがオンライン寺ツアーの魅力ですので、オンラインと
現地というふうに分けて行ったほうがやりやすいと考えてます。
ハイブリッドは、ハードルがいっぱいあるとも考えています。参加者が映ってていいのか、映しちゃいけないかといったことも考慮しなくてはいけないし、質問などもどちらを優先していいか難しいですね。
だから今後の指針としてはどちらかに分けていくというのも大事ですし、ハイブリッドで可能なものはハイブリッドにしていくことも考えてもいいですね。
動画は残るものですので、そこも問題になってきます。また、ここで真剣に話を聴かなくても、後で残っている映像を見ればいいやと思わせてしまうことも禅の教えと乖離していくようにも感じます。
そう考えるとクラブハウスというSNSはすごく一期一会的ですね。そこでの会話は残らない場合も多く、聞き逃さないという緊張感がやはりありました。ここでしか聞けない、メモを取るしかないというような聞き逃せない緊張感こそ、リアルな講演会や坐禅会のいいところだと思うのです。オンライン企画に携わるようになって、参加型の大切さを改めて再確認できたように思います。オンラインと参加型、二つのいい点を活用していくことが今後重要になると考えています。




これからの布教について
【質問者】オンラインと布教について
これから、様々なことがICT化・オンライン化していくことになります。この先、関東地方での布教の拠点を担っている東京禅センター様がどのようにインターネット・オンライン・ICTと向き合っていくのか、考えていることがありましたら教えてください。
また、各寺院でオンラインに取り組んでいる和尚様が増えてきていますが、そういった方への言葉をお願いいたします。


【細川師】
どんなに素晴らしい企画も、参加者がいらっしゃらないと成立しません。やはり、私たちに決定的に足りないのは、告知であると考えています。
ですから、その告知に関して皆で共有できるようになればありがたいですよね。たとえば、東京禅センターが案内所の役割になって、オンラインの企画でこんなにいいのがありますよ、というのをプラットフォームというとちょっとオーバーかもしれませんが、そこに来るといろんなオンライン企画を知ることができる、様々なお寺での開催状況がわかり、1クリックでそっちに飛べるような案内所になればいいなと考えています。
お互いが告知し合うことで、企画情報を拡散し、参加できる選択肢を一般の皆様に一つでも多く提供できるようにしていくのは、このオンライン化していく世の中で大切なことだと思います。どこかがしっかりとやらなくてはならないことだと考えています。

かつて松原泰道師は、若い方々にも仏教の教えが届くようにと喫茶店で法話をされました。50年前の当時は、若者が集まるのは喫茶店だったからです。現代において若者が集まる場所がどこかというと、もしかするとネット上の世界なのかもしれません。
その世界で広く告知していくことは、たくさんの縁が生まれるきっかけになると思います。以前、臨済宗青年僧の会さまの研修会で、スタジオジブリの鈴木敏夫さんとの対談企画もyoutubeにアップしていただきましたが、この前見てみるとめでたく1万回以上再生されました。一万人を超える人たちが、臨済宗青年僧の会さんのホームページにリンクした可能性があるというのは、すごいことだと思います。この方たちを、いかに次の禅に関わる企画にご縁を繋いでいくかというところこそ、私たち自身がもっと取り組んでいかなくてはならないことだと思うのです。
やはり、オフラインというか最終的にはお寺などの現場に、最終的に来ていただき、禅に触れていただくという目標を見失うことなく、オンラインに参加する事によって「お寺に坐禅に行きたい」って思っていただける企画が必要であると思うのです。そして最終的には、われわれ和尚と同じ空間で坐禅をするところへ繋いでいくという手段の一つとして、オンラインというものをもっと活用していくべきであると思うのです。




【質問者】
オンラインの先には、細川師がおっしゃるように「お寺に人が来る」ということがあると思いますが、今新しい世界としてメタバースや仮想空間系といったものも注目されています。このような場所も「お寺に人が来る」きっかけの一つにはなるのかなと思うのですが、そういった仮想空間ということについてはどう考えていらっしゃいますか。


【細川師】
ニーズがあればそれに応える方、得意な方が頑張ってくださるのは、宗門としてすごくありがたいことだと思います。
こういった空間については、これから活躍される若いお坊さん方が、どのように活用していくかがすごく大事なところだと思います。

どちらにしても、私たち自身に「何か伝えるべきもの」がないと、どんな仮想空間であろうと、メタバースであろうと、形式的になってしまうと思います。私たち自身が、自分たちが取り組んできた禅というものをしっかりと持ち続けていくこと、そのため努力の継続がなければ、どんな場面に行っても通用しなくなってしまうと思っています。

ですから、こうやって多岐にわたる方向性があるからこそ、もっともっと私たちは仏教や禅に真摯に向き合っていく必要性がますます出てきたと思うのです。ないものはやはり伝えることは、できないません。Zoomやyoutube、またメタバース、ロボットカフェでも、しっかりと人々に禅というものを説き続ける禅僧でなければならないと、自分に言い聞かせています。最終的には、やはり己事究明が大切になってくると思うのです。私の師匠である雪丸老師も常に

「非力の菩薩 人を救わんとしてかえって溺れる」

とおっしゃっていました。私たちが”力がない非力の菩薩”であったなら、このメタバースやロボットカフェが、どれほど素晴らしい場所であったとしてもそこに溺れて埋没してしまうと思うのです。ですから私たち自身がしっかりとした禅というものを見つめていく、見つめていった上である程度のものをそれぞれがつかんでいなければならないのではないかと、考えさせられました。
例えばすごい良い原稿があって、それをただ一字一句暗記して流暢に話せるようになって巡教にでれば、聴衆の檀信徒の皆様誰しもが、満足してくださるんじゃないかという意見も昔から出てるようですが、私はそれは違うと思っています。
それぞれの体験を、それぞれのフィルターを通して、それぞれがみんな心に受け止めて、受け止めたものをそれぞれの言葉で表して伝えていくところにこそ、AIではなく様々なお坊さんが存在する意義があると思うからです。

ですから、オンラインではなく、それぞれの和尚さんたちに来て欲しい、直接言葉が聞きたいと言われるように、私たち自身が目まぐるしく環境が変わっていく中で、どう自分というもをもちながら僧侶として生きていくかが大切になると思うのです。臨済宗青年僧の会さまの坐禅会がたくさんの直日の和尚さんと、事務局の和尚さまのご尽力によって、これだけの回数を重ね、たくさんの方と坐禅を共有しているこの現状は、私たちの臨済宗・黄檗宗の将来に、光が見えたように思えるのです。

話が違う方にいってしまいましたが、最終的にはやっぱりオンライン寺ツアーでも大事にしていることなんですが、コロナが落ち着いたら行きたいって思っていただけるようにこだわりを持って、「やっぱりオンラインも良かったけどちょっと落ち着いたら、このお寺さんに行ってみよう」と思っていただける企画であることだけは、忘れないように取り組んできたつもりです

オンライン企画もそうですが、実際に取り組んだからこそ見えてきたものは、本当にたくさんありました。最初から動画はだめ、オンラインはだめと、否定から入るのではなく、とりあえず一生懸命やってみる。やってみてからやっぱり合わないなというのは、もちろんあると思いますし、そこから学ぶこともたくさんあるはずです。最初からの食わず嫌いは、きっと禅の求めるところではないはずです。



※東京禅センター オンライン寺ツアー ホームページ

臨済宗青年僧の会(臨青)は昭和55年1月に「青年僧よ立ち上がれ、歩め」をスローガンに掲げ発足した全国組織です。
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